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大掃除

街を歩くと自営業のお店はどこも閉まり、シャッターの横には門松。上にはしめ飾りを付け、新年を迎える準備が整っていた。それを見ながら、やっぱり今日は大晦日なのかと一人なぜか納得する。家に帰ってきて、掃除くらいはと取り掛かった。

夏用の服や読まなくなった本などをまとめて、物置にもっていくと、積み上げられた段ボールにもたれ掛かる一本のアコースティックギターがあった。

うすもやがかかったようにカビが生えていた。

もっていた雑巾でカビをぬぐうと咳き込んだ。あぐらをかき、ギターのチューニングを合わせ、コードを鳴らしていく。まだまだ綺麗な音がした。

ギターに合わせて、誰も知らない曲を口ずさむ。
「ここにあるのは古造りのアンティークのようなあたたかさ〜♪」

私の曲。あの当時、このギターで一番歌っていた「awesome」という曲。素晴らしい仲間に囲まれていた大学時代を曲にした。周りからの評判は上々で、台所で皿を洗っていた友人が自然と口ずさんでいたこともある。


このギターとの出会いは、18歳だった2006年。当時、渋谷のタワーレコードの隣の隣くらいに楽器屋があった。まだFコードすらも弾けなかった私に、店員さんが「ギターが育ててくれるから、いいギターをかった方がいいよ」と、なんとも艶やかな言葉をかけるものだから、迷うことなく全財産を叩いた。メーカーはmartin。

こいつと、夢の旅をともにした。

たくさんの曲を書き殴り、音楽を勉強するために学校へも行き、当時、人気だったコブクロやゆずを真似て2人組で活動した。毎日、都内のどこかの駅で路上ライブやったが、homeにしたのは吉祥寺駅か田無駅。田無駅で歌うと、目の前のLIVINというショッピングセンターの壁に声が反響して、真っ暗な夜空の奥の奥に消えていくのが痛快だった。

クソほど下手だった演奏にも、立ち止まってくれる人がいて、それで繋がった人もいる。あの人たちは、どこでどんな年越しを迎えるのだろうか。

どこに行くにもハードケースにギターを入れて持ち歩いた。電車の中では、ギターを支えに寝た。彼女と会う時も、かたわらにギターがあることがしばしばで、いつかの誕生日の時は、もらったプレゼントで私の両手が塞がり持てなくなったものだから、「しょうがないなー」と彼女が持ってくれた。重たいケースに入ったギターを小さな頭に乗せ、両手で支え、私の前を可愛く歩いたのを覚えている。

たくさんのことがあった夢の旅は、尻すぼみに消えていき、いつしか遠い昔のことになった。

ギターを弾き終え、捨てるか少しだけ迷って、また物置に戻した。


「買うんじゃなかったこんなもの」

end

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