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秘密基地

2月ある日の昼、アウトドア用の服に普段使わないニット帽を合わせて外へ出るとシトシト雨が降っていた。さっきまで天気予報は曇りといっていたのを思い出し、再びスマホの天気予報を確認するとこの短時間で予報は雨に変わっていた。後出しジャンケンのようだと思った。

雨をよけながら車にキャンプ道具を積み込む。テントに寝袋にマットに椅子に薪に炭に・・・トランクだけでは入り切らず後部座席まで使う。キャンプをする人たちはこういった道具のことをカッコよくギアという。私はまだ言い慣れない。今回のギアで、一際輝いているのは、初めて使うテントだ。これまで何度かキャンプに行ったが、借り物のテントだったり、人のテントに入れてもらったりしていた。いよいよ我が城。これを使いたくてしょうがない。昨日夢にまでみた。

今日の場所は、観音ヶ池公園。無料でキャンプができる。池の周りに桜の木が無数に植わっていて、春になると花見の名所となり、死んだ父とも一度来た。今は、裸の桜が寒そうに静かに春を待っていた。池では水鳥が、しゃかれた声で鳴いている。その側の茶けた芝生がキャンプサイトになる。無料のわりにトイレや水場は充実している。一足先についていた友人は、すでに自分の城であるテントを張り終え、タープという、雨をよけるための広いシートの下に、ギアを並べ、何かを飲みながら遅れて到着した私に、手を振ってくれた。タープに落ちる雨の音が心地よい。

友人は、キャンプの師匠でもある。一緒にキャンプに行くのは今回3回目になる。今回も食事の用意は師匠に甘え、私は2人分のお酒だけ持っていった。

雨も気にせず、あのテントの設営にかかった。初めて立てるテントで少し戸惑ったが、一人用のテントで難しくはない。インターネットで入念に調べ、青森のアウトドアショップから取り寄せたテントは、私の想像以上にカッコよかった。

雨は止み、夕日は見えぬまま暗くなった。焚き火をつける。師匠も新しく買ったギアを見せてくれる。焚き火の一方を囲んで、自分たちの方に火の温もりがくる反射板は、あるのとないのでは大きな違いで、余計に明るくもなる。初めてのギアに二人して目を輝かせて「これいいっすねー」と興奮する。そして師匠はこれまた新しく買った火吹き棒を取り出し、消えかかった焚き火に息を吹きかけ、「この火吹き棒さえあれば不死鳥のように火は蘇るんだぜ、サラマンダー」と火の神様の名前を連呼していた。

このキャンプの感覚には覚えがあった。小学生の時に作った秘密基地だ。地域の友達4・5人で近くの公園の裏山に秘密基地を作った。竹藪を切り開き、自分らの家からゲームや雑誌、飲み物など持ち寄り、公民館からゴザを拝借するなどして色々なところからギアを持ち寄り、雨の日も、風の日も過ごした。結局、見つかってこっぴどく叱られ、みんなで親に付き添われ、山の持ち主の方のところへ謝りに行ったことを覚えている。あの秘密基地を作る感覚ととても近い。

師匠が用意してくれた本日のメニューは、人形町から取り寄せた割下を使ったすき焼き・肉は赤みの多いモモ肉。どこかの名店から取り寄せて、蒸籠を使って蒸した小籠包、焚火台の下で作ったピザ、豚汁、つまみには、からすみ、ピーナッツ、チョコレート。私がもってきたビールにウイスキーのボトル2本を添える。

いうまでもなく、どれも美味く酒もすすむ。いつの間にか時間はすぎ、0時を回るころにはそれぞれの城に戻った。私は簡易ベットに分厚いマットとマイナス2度まで耐えられるという寝袋を敷く。足元には湯たんぽを入れ、ガスストーブも使い暖をとる。翌朝、目が覚める。夜中に目覚めることはなかったが、眠い。身体は全然休めてないことに気づく。だるい身体で、テントを干したりと片付けをし、師匠にさよならを言って帰る。

家に着いて、自分の部屋の暖房をつけ、暖かいふかふかの布団の中に潜り込む、結局やっぱりこれが一番だよねといいかける自分の口を塞ぐ。

end

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