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若不生者のちかい

「若不生者(にゃくふしょうじゃ) 不取正覚(ふしゅしょうがく)」といふは、(中略)至心信楽(ししんしんぎょう)をえたるひと、わが浄土(じょうど)にもし生れずは仏に成らじと誓ひたまへる御のりなり。

尊号真像銘文

浄土真宗(じょうどしんしゅう)で大事にしている仏さまを阿弥陀仏(あみだぶつ)といいます。阿弥陀仏は、この私を救うために、私に合わせて救いを用意しようと誓われました。お経には、その心を「若不生者(にゃくふしょうじゃ)不取正覚(ふしゅしょうがく)」と説かれています。「若不生者」とは『もし、あなたを救うことができないならば』という意味であり、「不取正覚(ふしゅしょうがく)」は『私は仏になることができません』という意味です。阿弥陀仏は、こちら側に、修行がこれだけできたら救うよ、立派になったら救うよ。しっかりしたら救うよ、お供物をたくさんしたら救うよというような条件を一切つけず、阿弥陀仏の側が、この私を救える確かな仏になるのだとお誓いくださいました。

テレビであるレストランが紹介されていました。店の外にはパラソルを立てたテラス席が用意され、店の中は白一色に統一されていて、ちょうどその日は快晴で日差しが差し込んでいたこともあり、とても明るい店内で、椅子も机も、店員さんのエプロンもおしゃれに統一されている、まさにインスタ映え間違いなしの空間でした。その日のメニューは三種類あり、スペシャルきまぐれピザ。牛バラシチュー、エビ入り水餃子の三種類。値段はいずれも千円でした。運ばれてきた料理は、高級料理店かと思うほど、おしゃれにお皿に盛り付けてあって、千円とは思えない出来栄えでした。お昼時には、中も外もたくさんのお客さんでした。私は、都会にあたらしく素敵なレストランがオープンしたことをテレビで紹介しているのだと思いましたが、お店の名前が紹介された時に、目を疑ました。店名は「注文を間違える料理店」でした。

実はそのレストラン、普通のレストランとの大きな違いは、注文を取ったり、料理を運んだりするホールスタッフがみな認知症の症状がある方々だということです。

テレビ局のデレクターであった小国士朗(おぐに・しろう)さんという方が、介護の現場を取材した時に、認知症の方と接し、そこのマネージャーさんから、ここで生活している方たちは認知症である前に、人なんだ。人にとって、自分の意志を行動に自由に移せることがどれほど素敵なことか。と教えていただいたそうです。その言葉がきっかけとなって、この注文を間違える料理店を開こうと思い立ったといいます。そして小国さんは、たくさんの仲間を集めていきます。一流の料理人、広告を担当する方、デザインを担当する方、資金を調達する方、介護のプロフェッショナル。ついに、注文を間違える料理店をオープンさせたのです。

お店の入り口に大きな看板を置きました。そこには「注文を間違えるなんて変なレストランだな。きっとあなたはそう思うでしょう。私たちのホールではたらく従業員は、みんな認知症の方々です。ときどき注文を間違えるかもしれないことをどうかご承知ください。そのかわり、どのメニューもここでしか味わえない、特別に美味しいものだけをそろえました。こっちもおいしそうだし、ま、いっか。そんなあなたの一言が聞けたら。そしてそのおおらかな気分が日本中にひろがることを心から願っています」

お客さんは、その看板を見て入ってこられますから、事情をわかっていらっしゃいます。実際、間違いはとても多いみたいですが、間違いにも笑顔で「いいですよ」と対応していらっしゃいました。

お客さんがインタビューに答えていました。「あそこで注文をとってはたらいているのは、私の母なんです。母は、早くに亡くなった父にかわって、化粧品の会社で働いて私を育ててくれました。定年で退職してすぐ、認知症の診断を受けました。母も家族もその診断を受け入れられず、我慢の日々が続きました。あれをしたらだめ、これをしたらだめと母の行動を制限してゆく中で、母の表情はみるみるうちに暗くなり、笑顔をみることすらなくなりました。化粧をすることもありませんでした。それが今、こうやって生き生きと笑顔ではたらいている。お化粧もしています。こんな姿を何年ぶりに見たでしょう。昔に戻ったみたいで本当に嬉しい」と答えていました。

この注文を間違える料理店は、認知症の方にああしなさい、こうしなさいとはいわず。周りのスタッフやお客さんの方が意識を変えて、認知症の方をそのままを受け入れていかれました。その空間はとてもあたたかかったです。

阿弥陀仏もあたたかい仏さまです。私の全て知った上で、私の側に一切条件をつけず、この私を救える仏になると誓われました。今、そのお誓いのままに、私のところに来てくださってお念仏となってご一緒くださっています。

称名

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